ヒトiPS細胞由来 心筋スフェロイドを用いた膜電位とカルシウムの同時マッピング

移植片とホスト組織間の電気的結合の評価にも最適

2Dから3Dへ:より生体に近い心臓モデルでの研究を

現在、心血管疾患は世界の主要な死因であり、多大な医療・経済的負担となっています。しかし、膨大な研究費が投じられているにもかかわらず、新規薬剤の90%が臨床試験で失敗しており、その主な原因の一つとして臨床的・亜臨床的な心毒性が挙げられます。

長年、心臓研究の主流であった従来の2D培養モデルには以下の欠点があります。

2D培養モデルの欠点

  • 構造的複雑性の欠如
    生体内の心臓が持つ複雑な3D構造や、細胞外マトリックス(ECM)との相互作用を再現できない
  • 生理学的関連性の低さ
    細胞同士の立体的な接触や微細環境が異なるため、薬物応答の予測能に限界がある

研究現場には、ヒト特有の心臓組織の発生、生理、疾患プロセスをより正確に模倣できる「次世代の3Dモデル」が求められています。

心筋スフェロイド:3Dがもたらす高い生理学的妥当性

ヒトiPS細胞(hiPSC)から作製される心臓スフェロイド(またはオルガノイド)は、心筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞などが自己組織化することによって3D構造を形成したミニチュアモデルです。

心筋スフェロイドを使うメリット

  • 生体に近い組織構成
    3D環境下で細胞が相互作用し、ヒト特有の心臓組織の成熟や疾患プロセスを高い精度で再現
  • 予測能の向上
    創薬、毒性試験、疾患モデリングにおいて、従来の2Dモデルを遥かに凌駕する生理学的関連性を示す
  • 柔軟な設計
    特定の疾患患者由来のiPSCを用いることで、パーソナライズされた治療法の開発や、特定の遺伝的背景を持つ疾患(肥大型心筋症や不整脈源性心筋症など)のモデリングが可能

革新的な「オールオプティカル」電気生理学プラットフォーム

最新の研究では、光遺伝学(オプトジェネティクス)による刺激と、膜電位(Vm)およびカルシウムトランジェント(CaT)の同時光学マッピングを組み合わせた「オールオプティカル」な手法が確立され、心筋スフェロイドにも応用されています。

下の画像は、ヒトiPS細胞由来 心筋スフェロイドを膜電位感受性の色素 (RH237)とカルシウム感受性蛍光タンパク質 (jRCaMP1b)で標識し、2つの高速カメラで完全同期撮影した例です。

ヒトiPS細胞由来心筋スフェロイドを用いた膜電位とカルシウムの同時マッピング例

「オールオプティカル」システムがもたらすメリット

  • 非侵襲的かつ高精度な記録
    電気刺激によるノイズや電極の物理的干渉を排除し、組織に触れることなくミリ秒単位の電気生理現象を可視化できる
  • 高精度な可視化
    電気的マッピングと比較して、高い時空間解像度で心臓の電気生理学的機能を直接イメージングができる
  • 興奮収縮連関の統合的理解
    膜電位(Vm)とカルシウムトランジェント(CaT)を同一のサンプルから同時に記録することで、心機能や不整脈メカニズムについて、より多くの情報に基づいた洞察を得ることできる
  • 独立した刺激
    光遺伝学アクチュエータ(CheRiffなど)を移植片(グラフト)側のみに発現させることで、ホスト組織に影響を与えずグラフトのみを独立して刺激することが可能
  • 活性化の明確な帰属
    遺伝子にコードされたセンサーと有機色素を使い分けることで、観察された電気的活動がグラフト由来なのかホスト由来なのかを曖昧さなく判別できる
出典:J Mol Cell Cardiol. 2025 Feb:199:51-59.

サンプル動画

サンプルヒトiPS細胞由来心筋スフェロイド
刺激方法電気刺激
蛍光プローブ膜電位感受性色素 (RH237、 左画像)
カルシウム感受性蛍光タンパク質 (jRCaMP1b、 右画像)
イメージングシステムMiCAM03-N256 2カメラシステム
画素数256x256
フレームレート500fps (2.0msec/frame)
提供Dr. Hanyu Zhang, Dr. Bijay Guragain, Dr. Jianyi Zhang, and Dr. Jack M. Rogers
Department of Biomedical Engineering
The University of Alabama at Birmingham
参考論文Optogenetic stimulation and simultaneous optical mapping of membrane potential and calcium transients in human engineered cardiac spheroids
Journal of Molecular and Cellular Cardiology 199 (2025) 51–59

3Dスフェロイドだからこそ可能な高度な解析

スフェロイドを使ったこの手法は、単なる記録ツールにとどまりません。3D心臓モデルの特性を最大限に活かした解析を支援します。

スフェロイドを使ったオールオプティカルシステムがもたらすメリット

  • 再生医療における「Host-Graft Coupling」の評価
    移植されたスフェロイド(グラフト)とホスト組織を独立して刺激し、その電気的結合の状態を明確に追跡ができる
  • 興奮収縮連関の深い理解
    同一の細胞群から膜電位とカルシウムダイナミクスを同時に取得することで、リエントリーや伝導遅延といった複雑な現象を多角的に評価することが可能
  • 高度な安全性試験
    2Dモデルでは見逃されていた微細な薬物応答や心毒性を、より生体に近い3D環境で検出可能

参考商品

上の動画撮影に使用された高速イメージングシステム MiCAM03-N256をメインとする光学マッピングシステムです。

蛍光染色された心臓・神経サンプルの電気的活動をで1,818フレーム/秒ほどの高速で捉えて画像化し、画像解析・波形解析~マップ画像作成・エクスポートまで対応しています。データ計測に必要な高輝度LED光源、電気刺激装置も付属。すぐに実験が始められるオールインワンのターンキーシステムです。

高速光学マッピングシステム

主なアプリケーション

  • 膜電位感受性色素やGEVIを用いた膜電位イメージング
  • カルシウム色素やGECIを用いたカルシウムイメージング
  • 2カメラを用いたレシオイメージング

構成と特長

高速カメラ

  • 画素数:256x256~32x32画素
  • 最大フレームレート: 1,818fps (256x256画素)、20,000fps (32x32画素)
  • 心電図などのアナログ信号記録やパルス出力、光源点灯信号などが可。外部機器との同期も簡単

高速イメージングシステム MiCAM03-N256

ソフトウェア

  • Activation mapやConduction velocityなど、様々なマップ作成機能
  • 直感的で簡単な操作・分析時間の短縮
  • 論文・プレゼンテーション用の高解像度イメージをエクスポート可能

→ Optical Mappingデータ解析ソフトウェア BV Workbench

マクロ蛍光顕微鏡

  • 0.19x~6.3xほどの低倍率なのに他社製蛍光顕微鏡より明るく観察
  • 高速蛍光イメージングのS/N比が向上
  • 蛍光スプリッターで2波長同時計測も可能

→ マクロ蛍光顕微鏡 THT Mesoscope

高輝度LED光源

  • 高輝度照明 イメージングのS/N比が向上
  • 高安定 生物シグナルにノイズを加えない

→ マルチLED光源システム LEX9

多機能電気刺激装置

  • パルス出力、アナログ入力、オシロスコープ、光源点灯制御など
  • 刺激アイソレータ内蔵 電極を接続すればすぐに刺激可能

→ アイソレーター内蔵 多機能電気刺激装置

実績

販売開始から27年の間に世界230の脳科学/心臓研究機関へ約430台が販売され、MiCAMシリーズは高速膜電位イメージングの標準機として認められています。

弊社製品の使用した学術論文は27年で約1,000報、発表されています。

→ Google Sholarで論文リストを見る

お問い合わせ

心筋スフェロイドを用いたマッピングシステムの導入、およびマッピングシステムの詳細仕様や価格に関するお問い合わせは、以下のボタンより承っております。貴分野の研究をより発展させるお手伝いとなるソリューションをご提案いたします。

その他の参考論文:

Cardiac organoids: a new tool for disease modeling and drug screening applications
Front Cardiovasc Med. 2025 May 20:12:1537730.