ランゲンドルフ灌流心の膜電位光学計測

    
(The Columbus Dispatch, Ohio State research could help atrial-fibrillation patients, 2017/2/5より引用)


Q1:膜電位光学計測って何ですか?
A1:細胞膜電位の変化を光量を細かく測定することにより計測する技法です。
特殊な蛍光色素(膜電位感受性色素)で組織を染色すると、膜電位変化に応じて蛍光量が僅かに変化します。その蛍光量変化を特殊な高速カメラで捉えるのが膜電位光学計測です。その色素の応答速度は1ミリ秒以下なのでリアルタイムの膜電位計測が可能です。

 


Q2:電極での膜電位計測と何が違うのですか?
A2:計測点の数とデータの質が異なります。
細胞膜電位の変化に応じて細胞膜上の蛍光色素が蛍光量を変化させるため、その光量変化を時系列で表現するとパッチクランプと同様の波形になります。したがって、膜電位光学計測では、1画素の視野中に含まれる細胞群のパッチクランプデータを平均化したような結果が得られます。
また電極法では数百点の同時計測は困難であり、主として細胞外電位が計測されますが、膜電位光学計測では数万点以上のパッチクランプ電極を敷き詰めて同時計測したようなデータが得られます。


Q3:心房の膜電位変化は計測できますか?
A3:心房の膜電位も光学計測できます。
マウスの心房だけでなく培養心筋細胞シートやiPS細胞由来心筋細胞シートの膜電位動態も単離心臓同様に光学計測できます。強力な励起光で背景蛍光量を上げるほど良好なS/N比で計測できます。


Q4:どんなカメラでも膜電位の光学計測が可能ですか?
A4:膜電位光学計測には特殊なイメージセンサーを持つ高速度カメラが必要です。
良好なS/N比のデータを得るためには光ショットノイズ*成分の割合を低減する必要があります。そのためには、大光量でも飽和し難い、深いWell-Depth*を有するイメージセンサで毎秒1000コマ以上撮影できる特殊な高速度カメラが必要です。


Q5:膜電位以外に何か計測できますか?
A5:細胞内カルシウム動態が同時計測できます。
ブレインビジョン社の光学計測装置は2カメラ、または4カメラまで同期させて高速度撮影できます。近年では膜電位感受性色素と細胞内Ca2+指示薬Rhod2-AMで単離心臓を2重染色した後、膜電位と細胞内Ca2+動態を同時計測する技法が欧米では一般的なものになっています。膜電位や細胞内Ca2+動態以外の組織や細胞の状態をリアルタイムに表現できる蛍光プローブの活用を希望される声が少なくなく、溶存酸素濃度やATPなどの多様なプローブの実用化が期待されています。

(ヒト単離心臓の膜電位と細胞内Ca2+動態の光学計測例(ワシントン大学より))


Q6:心室細動の発生前後の膜電位動態は記録できますか?
A6:非常に簡単にできます。
細動誘導プログラムを起動して記録を開始すると、ペーシングと細動誘導が自動実行されます。細動が発生するまで、誘導刺激タイミングの設定を変更しながら計測を繰り返すだけで、細動発生前後の心臓全体の膜電位動態が記録できます。


ラットの心室細動が誘発される前後の膜電位動態。
188x160点の膜電位動態を500fpsで記録した例。記録後に任意の点の膜電位動態を光量変化-時間軸の波形で表すことが可能。データ解析は直感的な操作が可能なソフトウェアによりプレゼン資料用データまで迅速に作成可能。等時図やConduction Velocityの算出、空間的周波数特性の解析、各種APD解析など、ブレインビジョン社のデータ解析ソフトウェアは多様な機能が活用できる。


*光ショットノイズ
光自体が持つ量子的な揺らぎノイズであり、その平均は観測された光量の平方根分に相当します。100光子の光量は平均±5光子(±5%)分揺らぎ、10,000光子では平均±50光子(±0.5%)揺らぎます。

*Well-Depth
イメージセンサの1画素が蓄えられる電子数です。数値が小さいと暗い蛍光像が明るく見える反面、少ない光子数で飽和しやすくなります。数値が大きいほど多くの光子(大光量)を受入れられます。


参考動画

高速イメージングシステム MiCAM03-N256

MiCAM03-N256は膜電位感受性色素、カルシウム色素などの蛍光プローブで染色された生体サンプル内の微弱な蛍光輝度変化を高速で捉え、画像化することのできる世界最高性能の光計測システムです。

これまで世界中の脳神経/心臓研究分野で使用され、多くの実績を残したブレインビジョン製MiCAMシリーズの標準モデルである高速イメージングシステムMiCAM02の後継機種となります。

高速撮影・高S/N比、直感的な操作方法などの基本性能は継承しつつ、新開発CMOSカメラヘッドによる高画素化、高速データ転送による長時間記録などの新たな特長が加えられ、これまでには無いイメージングシステムへと進化を遂げました。